2016年12月21日水曜日

結末まで「歩く」価値はあるか Conclusion

私見だが、ゲームの面白さとは一般になんらかの情動を刺激することにあると思う。例えばアクションゲームなら、巧みな動きで障害をかわし、敵を撃破したときに得られる快感。例えばストラテジーなら、それまで積み上げてきた駒を上手に動かし勝利をもぎ取ったときの達成感。こうした情動の刺激はあらゆるジャンルの「面白い」ゲームについていえるだろう。
では、一般に「ウォーキング・シミュレーター」などとバカにされる――といっても「あの類」を他に何と呼べばいいのだろう、徘徊型アドベンチャーゲームとでもしようか――類のアドベンチャーゲームの場合はどうだろう? これもやはり、面白いゲームとして成り立たせるには情動を刺激するものがなくてはならない。例えばパズル的な要素をもたせてプレイヤーに退屈させることなく物語を楽しませたり、逆に徹底して歩くことそれ自体に深い物語性をもたせてプレイヤーを感動させたりといった具合だ。


「ウォーキング・シミュレーター」なる語は単にアドベンチャーゲームが嫌いなタイプの人間から反射や習慣で呼ばれることも多いが、特に多くの人から侮蔑をこめてそう呼ばれる場合、このようなゲーム性をもたせることに失敗した例であることがままある。この Conclusion という「ウォーキング・シミュレーター」はまさにその失敗の典型例であり、結果としてこの不名誉なジャンル名に存在意義を持たせるのに一役買ってしまっている。

ゲームが始まると、プレイヤーは雪山の奥地に放り出される。一人称視点のためわかりづらいが、声からしてどうやら男性のようだ。道に落ちているメモを拾う。それはどうやらこの人物の日記のようだ。学生のころから抱えるコンプレックス、アルコール依存症でリハビリテーションに取り組んでいたこと、家族に捨てられたこと……メモを拾うごとにその人物は記憶を取り戻していく。そして最後は彼がなぜこんな雪山にいたかが明かされたところで唐突にゲームが終わる。

ウォーキング・シミュレーターと呼ばれるゲームにはこうした「記憶のかけら」を集めて物語を形成するタイプのゲームが多い。こうしたやり方で成功したゲームもまた多い。Gone Home はまさしくその代表格だが、それほどの大物でなくとも Home is Where One Starts... や Gone In November など、 そうした成功作はこのブログでレビューしている(ついでに日本語化もしました)だけでも複数ある。

メモを拾って読まされる、それ自体は結構なのだが……
では Conclusion はなぜ失敗したのか。どの点が失敗とみなされるか。第一に、物語性があまりに薄い。あらすじは先に書いた通りだが、これでだいたいすべてである。題材の取り方はよかったが、物語の進展はただ通り道に落ちているメモを拾うだけであり、掘り下げ方がなっていないし、物語に深みもない。題材に関してだけいえば個人的な好みとも合致していただけに、歩けば歩くほど残念な気持ちがつのっていくのだった。

歩く道には散乱するゴミや血のりのついた墓などオブジェクトが転がってはいるが、それらに意味を持たせられていない
第二には「歩く」モチベーションにつながるものが不足していること。主人公はなぜ雪山にいてなぜ歩かねばならないのか、プレイヤーにはさっぱりわからない。そのくせ歩かされる距離だけはやたらと長い。小さな箱庭を作ることに成功している Home is Where One Starts... や、狂気の描写として暗闇のなかを歩く Gone In November と比較してみればその欠点はわかりやすい。そこにはたしかにプレイヤーを「歩かせる」ものがあるが、このゲームにはそれがない。これではゲームを進めても物語にいまいち浸れないのは当然である。これこそまさに悪い「ウォーキング・シミュレーター」の特徴だ。
容量と重さに見合わない画質
第三としては全体的にゲームとしての完成度が低いこと。私が2周プレイしただけでもゴール直前の視点移動後に地形にスタックするバグ、拾ったメモが画面中央から消えないバグ、ゲーム開始時に自動車事故の効果音が鳴らない(物語の筋にとって致命的である)バグなどに遭遇した。また、短ければ十数分で終わるゲームであるにもかかわらず、インストール容量に10GBもとるうえに、グラフィックの最適化がうまくいっていないのか、画質を上げるとゲームがやたらと重くなることも重大な欠点だ。かといって、画質を上げればきれいな景色を楽しめるかといえばそれほど美しくも壮大でもない、Unity エンジンの典型的なチープなアセットがみられるだけである。

定価200円のゲームに辛辣こそすぎるといわれるだろうか。しかし私はこの手の徘徊型アドベンチャーゲームのファンであり、先に挙げた Gone... や Home... など低価格でも楽しめる「ウォーキング・シミュレーター」を知っている。本家本元の Gone Home こそ定価は2000円とそれなりの値段だが、Gone も Home も200円前後であることを確認してほしい。この手の「ウォーキング・シミュレーター」は低予算で作れることがデベロッパーにとっても魅力なのだろうが、せっかく作るのであればしっかりと情動を刺激してくれる「ゲーム」に仕上げてもらいたいものだ。と、こうした結論(conclusion)を導くことができたことが、このゲームを遊んで得ることのできた唯一の意義かもしれない。


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